小説風

金沢の女(序)

金沢の兼六園の横にある神社、6月の午後4時はまだ明るく、まだ夕陽というには早く、気候も良い。

本日の百万石祭りの際には振る舞い酒が置かれており、境内に出店と青空バーが出ていた。A先輩は何度も振る舞い酒のブースに行き、多くの日本酒を嗜んでおり、ほぼ出来上がっていた。神社で堂々と酒を飲む?確かにお神酒という言葉があるのでOKなのであろう。そしてこの神社はお酒の神様を祀っているとのことで問題は無いらしい。

そんな中でおみくじを結ぶ紐を地面に固定し、設えているショートカットの若い女性がいた。ジーンズにTシャツ、小さなコンバースの白黒スニーカー、首にはタオルを巻いていて作業にふさわしい軽装だったが、目鼻立ちのくっきりした、とても美しい女性だった。ショートカットでこれほど均整のとれた女性に初めて会った。

彼女はスピーカーから音楽が鳴る中、まだ人もまばらな中で夜に集まる人々のために一生懸命におみくじを結ぶ紐を設置していた。まるで神様に仕える巫女のように。

ともするとこの神社の巫女さんなのかもしれない、とふと思ったが、巫女さんでショートカットの方はあまりお見かけしないので、例えば近所のこの神社の氏子さんで、今日は縁日だからバイトをしているのかもしれないなどと勝手に想像した。

僕が手水舎で手を洗い、ひとまずの参拝を済ませベンチに戻って休んでいると、スピーカーからヘンデルのハレルヤコーラスが流れ始めた。出来上がった顔の赤いA先輩が振る舞い酒の前に行って「ミヤガワ、もっと飲もうぜ、この曲知ってる?」と聞いてきたので、僕が「ヘンデルのハレルヤコーラスですよ、僕はもう飲みませんよ」と答えた瞬間、先程の彼女が僕の方に振り向きとたん目があった。吸い込まれそうな大きな瞳をしていた。

僕は一瞬彼女から目を逸らすことを忘れた。それくらい、いつまでも見ていたい美しさだった。彼女はすぐに目を逸らし、再び持っていた杭のようなもので紐を地面に固定しだした。

彼女のことが気になりながらもフラフラと神社の周りを散歩した。神社の左奥には小さな滝があり、清新な空気を放っていた。滝の下の池には鯉が何匹か泳いでいた。ハレルヤコーラスがその鯉のどっしりとした力強い生を讃えて終わった。次は僕の知らないジャズが流れてきた。

ひょっとすると彼女は音楽に興味があるのかもしれない、僕は都合の良い妄想に耽った。先程拝殿にて参拝を済ませたが、もう一度参拝して「この彼女と仲良くなれますように」と拝みたい気分だった。と同時に神社の敷地内でこのようなやましい事を考えている自分はいつか神様から天罰が与えられるのではないか?などと考えたりもした。

(続かない)

stux / Pixabay

 

 

 

 

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